世界の名画 ~美の殿堂への招待~

  • トップページ
  • バックナンバー

ストーリー

印象派・平和への架け橋 ひろしま美術館

番組名

フランス近代絵画のコレクションで知られるひろしま美術館は、広島市の中心部、中央公園の一角に建っています。展示室は原爆ドームを、回廊は厳島神社を模しています。コレクションの中でも、この美術館を語る上で欠かせない絵画がルノワールの「麦わら帽子の女」です。全てはこの一枚の絵から始まりました。
1945年8月6日午前8時15分。人類史上最も悲惨な戦禍に見舞われた広島。廃墟と化した街で、いち早く稼働し始めた銀行で働く一人の男は、変わり果てた街を目の当たりにします。彼は後に頭取に就任すると、この暖かく優しい絵を購入しました。美術館の初代館長でもある井藤勲雄は、この街に必要な「愛といやし」を芸術に求めたのです。
「麦わら帽子の女」から始まったコレクション。その中心は19世紀ロマン派から印象派、エコール・ド・パリまでの作品です。「明るくて親しみやすい絵」をテーマに集められた絵画の数々には、郷土への思いがこめられています。
そしてもう一つ、遠くハリウッドから海を渡ってきたコレクションが美術館設立を大きく前進させました。ハリウッドの実力派俳優エドワード・G・ロビンソンは美術のコレクターとしても有名でしたが、コレクションの分散を憂いた彼の遺言で、一括オークションが行われます。それを日本の画廊が競り落とし、ちょうど美術館の構想が立ち上がっていた広島に海を渡ってやって来たのです。
60年前、一瞬にして多くの命が奪われ、閃光で焼き尽されたこの街は、瀬戸内の穏やかな海と中国山地の美しい山並みに囲まれた、豊かで安らかな土地でした。この街を愛した人々の復興への願いは叶い、今では人々の笑顔と活気に満ち溢れています。麦わら帽子の夢見た未来は現実のものとなりました。それを優しく見守り続けたのは、豊かな自然と、愛といやしの名画たちだったのです。