ありがとう

「小林幸子　～親子でかなえた歌手の夢～」

歌手、小林幸子。♪「おもいで酒」「とまり木」「もしかして」「雪椿」など数々のヒット曲を出し、紅白歌合戦、３３回連続出場を果たす。女優としても活躍する小林幸子は、芸能生活５０周年を迎えた。５０年の間には、ヒット曲を待ち望み、歌い続けた長い苦労の時代もあった。
今回、小林幸子が「ありがとう」を伝えたいのは、今は亡き両親。父、喜代照と母、イツ。戦後の新潟で、母の「これからは肉の時代が来る！」という直感から開いた小林精肉店で三人姉妹の末っ子として生まれ育つ。父は、若い頃歌手になる夢を持っていた大の歌好き。出征前に戦死したら形見にしてほしいと、自分の歌声のレコードを作った人だった。そもそも幸子が歌手になったきっかけは、父が９歳の幸子に内緒で応募した歌番組だった。「東京見物に行こう」と父に連れられて行ったのはテレビ局の予選会場。毎週勝ち進んでいった番組の審査員が、昭和の大作曲家・古賀政男。古賀にスカウトされて、大喜びの父に対して、母は大反対だった。父の「歌手になりたいか？」という問いに「なりたい」と答えた９歳の小林幸子。その時はその後の人生が波乱に満ちたものになるとは思いもしなかった。１０歳で一人、故郷・新潟から上京する。デビュー曲は、２０万枚の大ヒット。子役として映画やドラマにも出演し、忙しい毎日だった。しかしその後、成長とともに、背も伸び、声質も変わると歌手の仕事は少なくなっていった。さらに同じ頃、実家の商売が立ち行かなくなり一家で幸子のいる東京へやって来る。家族５人の家計を支えるため、幸子は懸命に働く。年齢をいつわってキャバレーやクラブを回る日々。２５歳の「おもいで酒」のヒットまで歌い続けることが出来たのは幸子の傍らに常に支えてくれた両親がいたから。今が一番幸せと知りながらも、しかし、母は死ぬまで「歌手になるのは反対」と言っていた。それは一人の女性として娘に幸せになってもらいたいという母の想いだった。今、幸子の手元には、父の歌声と、母の死後に見つかった母の歌が入ったカセットテープがある。二人の歌声に今も支えられ、歌い続ける小林幸子の半生を追う。