辰巳琢郎の家物語 リモデル★きらり
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飛騨高山のカリスマ左官 挾土秀平さんの家

まさに小京都といった風情の、美しい街並が残る岐阜県高山市。飛騨高山には、昔ながらの景色が、今もしっかりと根付いています。
今回は、そんな高山を拠点に活動する、左官の挾土秀平さんを訪ねます。挾土さんは、洞爺湖サミットや東京の一流ホテルなどを手掛ける日本屈指の左官職人で、その独特の感性から生み出される土壁は多くの人々を魅了しています。そんな挾土さんに、ご自身が生まれ育った高山の街を案内していただきました。
待ち合わせは市内中心部にある、町家造りの古民家をリモデルした和菓子屋、「花筏」です。店名の「花筏」とは、葉っぱの真中に花を咲かす不思議な植物。店内には、その花筏の花をイメージした土壁がありました。また、お店と隣り合う蔵の壁も挾土さんが仕上げています。三角形が幾重にも重なったような幾何学的デザインは、これまでの蔵のイメージを覆しながらも、そこに残る懐かしい雰囲気と調和し、蔵の中には穏やかな時間が流れていました。
続いて案内されたのは、高山市の外れ。山あいの棚田に佇む茶室です。元はバッタリ小屋と呼ばれる、穀物を挽くための小屋でしたが、病に冒された持ち主の強い希望で、挾土さんがとっておきの茶室にリモデルしたのです。その外観からは想像もつかない極上の空間が、小屋の中には広がっていました。
そして最後に案内されたのが、今や挾土さんのライフワークともいえる「歓待の西洋室」です。およそ100年程前に建てられたこの洋館を、自分たちで移築することを条件に譲り受けた挾土さんは、美しい田園風景が広がる里山を自ら造成し、「100年前の建築当初より豪華で格好いい洋館」を目指して、リモデルに挑んだのです。洋館の解体から11年。未だ完成していないという挾土さん渾身のリモデルをご紹介します。
西洋文化の粋が凝縮された洋館。外壁のモールディングや客間のマントルピースからは、当時の最先端だった文化の香りが感じられます。玄関の正面には、大きな土壁が飾られています。この日の壁には、モールス信号で宮沢賢治の「春と修羅」と「雨ニモマケズ」が書かれていました。「歓待の西洋室」と名付けられたこの洋館。迎えるゲストによって土壁を変え、おもてなしをするそうです。洋間の天井を飾るのは、挾土さんがデザインした長さおよそ3,5メートルもある、春慶塗りの照明です。春慶塗りは飛騨高山に根付く、漆塗りの技法のひとつ。木目が美しく映えるのが特徴です。西洋室内の腰壁も、松材に春慶塗りを施したものを選びました。また、壁には大谷石を砕いて塗ったり、モールディングには桜貝の砂を塗ったりと、左官の技術を活かして、自然素材をふんだんに洋館に取り込みました。
左官の技と、職人の技、そして挾土さんのアイデアが融合した、贅沢な空間の数々。時間に追われる現代の暮らしの中で、本当に大切なものに気付かせてくれる、貴重なリモデルでした。

 

職人社 秀平組
http://www.syuhei.jp/index.html