SHISEIDO presents エコの作法
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2012年12月7日
「冬の京都×温もる」 

京都の冬…。 華やいだ色が一斉に引いてゆくと、
そこに、時を重ねてきた都の素顔が現れます。
やっぱり京都は冬に限る…
古き良き伝統が息づくこの地には寒さを乗り切る様々な工夫が
ありました。
夏は蒸し暑く、冬は身を切るような寒さ…。
京都盆地に生まれた町家作りには、季節と折り合いをつける、
巧みなワザが生きています。
建てられてから長い歳月を経た町家には、ほころびや隙間も見られます。
屏風は、隙間風を美しく防ぐ、生活の知恵。
畳の下には、冬支度に欠かせない火鉢が仕舞ってあります。
都会では滅多に見かけなくなった火鉢ですが、
気密性の欠ける町家では、いまも現役です。
部屋全体を温めることは難しくてもかざす手のひらが温もるだけで、
感じる寒さは随分薄らぎます。
備長炭が、ときおりはぜる音もまた、冬の風情かも知れません。
季節を映す床の間の掛け軸は秋が過ぎたら、冬に相応しいモノに…。
家の主の感性が問われるところ。少しだけ先取りするのが風流だそうです。
冬の初めには真冬を。春を焦がれる2月には、桜の景色を…。
寒さを楽しもうとする、京都人の美意識でしょうか。

料理旅館があります。
その昔は寺の宿坊だったという「美山荘」。
随筆家、白洲正子や作家、立原正秋などにも愛されてきた老舗です。
ファンが絶賛するのは素材の持ち味を十二分に引き出す料理の数々。
とりわけ、地元で育まれた山の幸は、馥郁とした香りを放ちます。
清流で獲れた天然の川エビもまた都会では出会うことの出来ない味わい。
土地の恵みにこだわること…
1年365日、中東さんは山を巡り、
地元の農家を訪ねて食材を集めています。
京都の、それも花脊の里でなければ楽しめないような料理を提供したい…。
中東さんの信念は、美山荘で味わう一皿一皿に貫かれていました。
料理旅館の心づくしは、絶品の味だけではありません。
大女将、中東和子さんの日課は、
お客様を迎えるお部屋の準備を整えること。
冬場は到着時間に合わせて炭火をおこし、かじかんだ手を温める、手あぶりを用意します。
京都の町中から、クルマでたっぷり1時間あまり…。
山ふところに抱かれるこの辺りは、冷え込みも半端ではありません。
こんなささやかな気配りが、一度は泊まってみたい宿…
と云われる理由でしょうか。
客室の床の間に置かれる花は、
大女将自ら、野にある草木を摘み取って活けています。
限りある命を尽くして咲く、花の美しさ…
ソレを愛でて頂く、もてなしの心です。

京都、西本願寺…。
例年、12月20日はお煤払いが行われます。
その名の通り、1年でたまったホコリや煤を払い出す行事は
門徒の方々も大勢参加する、年末の一大イベント。
はるか500年前から続けられてきたという、
お煤払いは、冬の京都の風物詩。
大掃除で堂内をくまなく清め、新年を迎える準備を整えます。
一方、町中でも家の大掃除が始まります。
国の重要文化財にも指定されている杉本家は、西本願寺の門徒。
築140年の町家には、代々受け継がれてきたお掃除の作法がありました。
仏間の脇に作られた庭掃除。
年が明け、家族が最初に挨拶を交わすのは、この仏間だといいます。
お庭に敷かれている黒い石は、
西本願寺能舞台の白洲を囲む石と同じもの…。
ひとつひとつ丁寧に1年の垢を落としてゆきます。
波を表すとも云われる庭石は、
平穏な一年を祈願して、乱れのないよう、整然と並べるのだそうです。
昔からのならいとはいえ、伝統を守るのは、楽ではありません。
仏間庭のお掃除だけで、半日かかります。
140年の間、変わらずに続けられてきた年の瀬の大掃除。
そこには家やモノを大切にする、京都人の心意気が伺えます。

冬の京都名物といえば湯豆腐…。
お豆腐を鍋で温めただけの湯豆腐は
そのシンプルさゆえに、味にごまかしが効きません。
お豆腐が中国から日本に伝わったのは、奈良時代とも云われています。
外来の文化は京の都に根付き、精進料理のひとつとして、
日本流に洗練されてきました。
お邪魔したのは、400年近い歴史を誇る湯豆腐の老舗、奥丹清水…。
広いお庭を眺めながら頂く、温かな湯豆腐には格別の味わいがあります。
こちらでは、昔ながらの製法で、お豆腐を作っていました。
庭の地下にある工房で、お豆腐作りは全てが手作業でした。
豆乳を固める透明な液体「にがり」も自家製。
工房のさらに地下にもうけられている、
その名も「にがり部屋」…。天然の「にがり」を精製しています。
「にがり」とは、海水から取り出した塩を、
藁のむしろに閉じ込め、そこから染みだしてくる液体です。
塩から液体を抽出するには、十分な湿気がなくてはなりません。
だからこの部屋は地下深くにあるのです。
豆乳は次第に固まり、弾力を持ち始めました。
ぷるぷるとした感じは、天然の「にがり」ならではだとか…

時の流れを生き抜いて、いまに伝えられてきたワザと味。
京都の人々は過酷な季節を楽しむ術を身につけてきました。
だから…冬の京都には、温もりがあるのです。

美山荘

京都府京都市左京区花脊原地町大悲山375
TEL:075-746-0231
http://miyamasou.jp/

杉本家住宅(重要文化財)

京都府京都市下京区綾小路通新町西入ル矢田町116番地
TEL:075-344-5724
http://www.sugimotoke.or.jp/
※常時の一般公開はしていません。詳しくはHP参照。

総本家 ゆどうふ 奥丹清水

京都市東山区清水3丁目340番地
TEL:075-525-2051
http://www.tofuokutan.info/

貴船神社

京都府京都市左京区鞍馬貴船町180
TEL:075-741-2016
http://kibune.jp/jinja/

ジェフ・バーグランドさん


<プロフィール>
著作家・タレント・京都外国語大学教授。
専門は異文化コミュニケーション。外国と日本の文化の違いだけでなく、男女、年齢、障害者と健常者などさまざまな文化間コミュニケーションについて研究。「日本から文化力」「遠くから見たNIPPON、近くから見た世界」などをテーマに、お互いの文化を理解するために必要なコミュニケーション方法について、企業、行政、PTA関係などでも講演多数。近著に、東日本大震災後に届いた1通のメールをきっかけに執筆した「受ける日本人 繋がる日本人-いま世界に伝えたい受信力」がある。日本人の受け入れる心と繋がる文化こそ、日本人の力であるとメッセージを送っている。
趣味は尺八、囲碁、ジョギング、掃除など様々。現在は、160年前の江戸時代後期に建てられた京都鴨川沿いの町家に暮らす、日本人以上に日本の文化を愛する一人でもある。