SHISEIDO presents エコの作法
  • トップページ
  • 【エコの作法】
  • バックナンバー
  • スタッフ

バックナンバー

2012年6月15日・29日放送
2014年6月20日放送
「愉しむ×雨」

日差しの照りつける夏がやってくる前、日本列島はしばらくの間、「梅雨」の雨に包まれます。
日本人は古くから、様々な方法で雨を愉しんできました。

自然の変化に敏感な日本人は、様々な雨の違いを、絵画においても巧みに描き出しました。
歌川広重の「大はしあたけの夕立」。
隅田川にかかる新大橋の上、突然襲った夕立に慌てて駆け出す人々。
夏の日の、自然と人間の営みの一瞬を切り取った名作です。
雨を表現するのは画面全体に描かれた無数の直線。
よく見ると、濃い線と薄い線の2色で刷り分けられ、色の濃淡で遠くの雨と近くの雨を表現しているのです。
私たち日本人からすれば、雨を線で描くのは当たり前ですが、実はこれが日本独特の表現方法。
海を渡った広重の「雨」の絵は、あのゴッホにも模写しました。

浮世絵師たちは、女心をも雨で表現しました。
鈴木春信の「雨夜の宮詣で」。
恋の成就を願い、雨の中をお参りする娘。
激しく降る雨は、熱い恋心を表しています。
傘をかしげるのは、当代随一の美人とうたわれた笠守稲荷のおせん。
傘は粋な「蛇の目」です。
当時、ファッション雑誌のような役目も果たした浮世絵。
「傘持ち美人」といわれたほど、傘は重要なファッションアイテムでもありました。

日本が誇る伝統工芸のひとつ、和傘。
竹の骨組みに和紙などを張り、油を塗った和傘はすべて自然に還る素材で作られています。
たたんだ時に、面が内側に折り込まれ、雨の雫が周りを濡らすこともありません。
そんな、自然と人への思いやりが込められた和傘は、日本文化を象徴するひとつとして今も作られています。
傘が雨具として一般的に使われるようになったのは、江戸時代に入り、庶民も装いを楽しむようになってから。
江戸の町で、美人の持つ傘といえば蛇の目傘。
日本人にもっとも愛されてきた和傘です。
オシャレで高級、内側に鮮やかな飾り糸が施されます。

和傘の伝統的な技術を受け継ぎつつ現代に活かす作品を手がけている和傘アーティスト、堀江康子さん。
和傘に込めた想い、それは「デニムに和傘」。
本来なら和装に合わせる和傘をデニムを着こなすような感覚で自由に使うというコンセプトのもと制作されています。
斬新で美しい傘を作りたいと考える堀江さんは、和傘の制作のほとんどを一人で手がけています。
彼女がもっとも拘っている糸かがり。
通常は単色の糸で行うことが多いのですが、見えない部分にこそオシャレをする日本人の粋な心を表現したいと、光沢のある赤や黄など様々な色を織り交ぜ出来上がったのは、花をイメージしたカラフルな糸かがり。デニムにも合いそうな出来映えです。

傘は人と人を繋いでくれた素敵な道具。
そんな傘も、今では、随分使い捨てにされています。
「お気に入りの一本を大切に使って欲しい」。
そんな気持ちを込めて、テキスタイルデザイナー鈴木マサルさんが傘のデザインを手がけました。
傘をキャンバスに見立てて大胆に描かれたカラフルな絵柄は、雨の日が待ち遠しくなるような愉しいものばかりです。
この傘にはもうひとつ秘密があります。

傘の三大パーツ「生地」「骨」「手元」が簡単に分解できる、環境を配慮したエコ設計。
ゴミの分別を可能にし、将来的にはパーツごとのリサイクルも行えるそうです。

傘を大切にする作法は人それぞれ、渋谷の町で傘を幸せにするプロジェクトが展開されています。
傘のシェアリングサービス「シブカサ」。
処分されてしまうビニール傘を企業や個人から寄付してもらい、無料で貸し出すサービス。
渋谷のシブカサ提携店においてある傘は誰でも自由に利用でき、借りた傘は、どこの提携店に返しても良いという仕組みです。
現在、シブカサ提携店は46店舗。
おしゃれなカフェの入り口にシブカサがあります。

長野県佐久穂町の農家を訪ねました。
在賀耕平さんは都内の企業に勤めていましたが、4年前に農業に転身。この佐久穂町にやってきました。
奥さんと2人、年間約60種類の野菜や米を有機農法で栽培。
畑に出られない雨の日は、つかの間の休息時間です。
雨が畑を潤す間に、自分たちも心の栄養補給。
雨は時に人の心も潤してくれます。
自然に合わせて日々を暮らす。
これが本当の生き方なのかもしれません。

見方を少し変えるだけで、憂鬱な雨の日が、潤いに満ちた瑞々しい一日に変わるはずです。

工房堀江 株式会社いちだい
堀江康子さん

住所:岐阜市千手堂2-9
http://www.wagasa-h.com/

伝統和傘 坂井田永吉本店

住所:岐阜市加納中広江町27
TEL:058-271-6958

晴耕雨読 GOLDEN GREEN

http://www.goldengreen.jp/

エコ・デ傘 ムーンバット株式会社

http://www.moonbat.co.jp/

シブカサ

http://shibukasa.com/index.html

アーサー・ビナード

<プロフィール>
アメリカ合衆国、ミシガン州生まれの詩人・俳人、随筆家、翻訳家。
20歳でヨーロッパへ渡り、ミラノでイタリア語を習得。ニューヨーク州コルゲート大学英米文学部を卒業。卒業論文を書く際に漢字・日本語に興味を持ち、1990年6月に単身来日。来日後、通っていた日本語学校で教材として使用された小熊秀雄の童話『焼かれた魚』を英訳した事をきっかけに、日本語での詩作、翻訳を始める。現在は活動の幅をエッセイ、絵本、ラジオパーソナリティなどに広げており、全国各地で講演活動等も行っている。
詩集『釣り上げては』で中原中也賞を受賞。