百年名家~築100年の家を訪ねる旅~

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広島・尾道 後編 ~海運の町が育んだ職人技~

今回の『百年名家』は、広島・尾道の旅、後編。

天然の良港に恵まれた尾道は、江戸時代には北前船の寄港地となり、全国から集まる絹や海産物などの積み荷、それを求める商人などで大変な賑わいを見せたといいます。 八嶋さんと本上さん、今回はそんな尾道ならではの個性的な建物を巡ります。

最初に2人が訪れたのは100年以上続く老舗料亭旅館。尾道水道に面した数寄屋造りの建物は明治・大正期の繁栄をうかがわせる贅沢な造り。天井、欄間など細部にまで職人の技を光らせた意匠が見られます。かつては海から船で直接客を迎えることが出来たそうで、今も旅館のすぐ脇にある「雁木」(船着き場)がその名残となっています。

尾道の浜辺の通りを散策しながら、立ち寄ったのは220年の歴史をもつ店。1786年(天明6)、船の積み荷を扱う綿問屋として創業。その後、海産物商や食品製造を生業として成長しました。2008年には味付ちりめんの専門店として再スタートしました。試食したちりめんは、他には見られない独創的な味付けで、尾道の食文化の深さを知った2人でした。

続いて2人は、通称「ガウディハウス」を訪れました。ここはかつての豪商が接待用に造った別荘。わずか10坪という斜面地にへばりつくように建てられた洋館付き住宅です。その複雑な形状から、いつしか「ガウディハウス」の愛称でと呼ばれるようになりました。1933年(昭和8)に着工し、3年をかけて建てたといいます。あらゆる方向に伸びる屋根が複雑に重なり合う飾り屋根、斜面地に合わせるために一段一段の形が違う曲がり階段。引き手・欄間などに遊び心が見受けられます。また台所は、この家を建てた当初の80年前のまま残されていて、かまどや貯蔵庫など、当時の生活ぶりを知る上で貴重な資料となっています。外を見ても、中に入ってもその造りに驚かされる、そんな建物でした。

海運で栄えてきた尾道ですが、近年、目立つのは空き家。車が入れない急峻な坂道に建てられた家からは、年々人が離れつつあります。しかし最近では、尾道の独特な町並みに惹かれて、この町ならではの風情ある空き家を活用しようという動きが、若い世代を中心に活発になっています。2人はそんな建物の一つを訪れました。 そこは終戦直後に建てられた家で、現在は芸術を学ぶ大学生が住居兼アトリエとして活用しています。廃材を利用した小さなバラック建築で、線路沿いの斜面の隙間にすっぽりとはまるようにたたずんでいます。 床や窓を自らの力で張り直し、壁を塗って創作空間に変身させています。昔ながらの職人さんもそんな若者たちの姿勢に心を打たれ、色々なアドバイスをしているそうです。尾道の魅力をまた一つ発見した2人でした。

今回は、去りゆく歴史に新たな価値を見出した旅でした。